父に伝えた日。沈黙の奥にあった愛
- 幸子 北口
- 1月23日
- 読了時間: 2分
一番悩んだのは、父への報告でした。
私は24歳のときに、母を乳がんで亡くしています。
母は最初左胸の乳がんでした。そして5年後に右に再発。さらにその5年後、縦郭から心臓の中へ転移し母は旅立ちました。
あの頃のことは、今でもはっきり覚えています。
そして今度は、その同じ病気を“娘である私”が患うことになってしまった。
父にどう伝えたらいいのか。どんな言葉を選べばいいのか。
考えれば考えるほど、胸が苦しくなって、なかなか切り出せませんでした。
結局、電話で伝えました。
言葉を絞り出して話したあと、電話の向こうはしばらく沈黙。
そして父がぽつりと、「……そうなんか」と。
落ち込んだ声が耳に残っていて、私はなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになったのを覚えています。
そのあと交わした言葉は、ほんの少しだけ。
「頑張らんとな」「うん」
たったそれだけの会話でした。
父は私の前では弱さを一切見せませんでした。
泣き言も言わないし取り乱すこともなくいつも静かでした。
でも、父が亡くなったあとに叔母から聞いた話があります。
私が父に報告したあと、父は叔母に電話をしたそうです。
そして電話口で、
「○○がかわいそうだ」
そう言って泣いていたと…。
私の前では見せなかった涙。その話を聞いたとき、胸がぎゅっとなりました。
悲しみも心配も全部抱えたまま、父は私の前では“いつもの父”でいてくれていたんだと思います。
あの時、言葉は少なかったけれど、父からの深い愛を確かに感じた瞬間でした。





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